みなさん、睡眠時無呼吸症候群についてご存じてしょうか。今回は、睡眠時無呼吸症候群の中でも、我々歯科に関わりの深い閉塞性睡眠時無呼吸症候群についてご紹介したいと思います。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群とは、寝ているときに呼吸が止まったり、いびきをかくことで、眠りが浅くなり、昼間に眠くなり、集中できなくなったりします。
また、高血圧や糖尿病、メタボの原因となったり、脳や心臓に負担をかける病気です。
では実際に日本人はどの程度、閉塞性睡眠時無呼吸症候群にかかっているかというデータを示したいと思います。
日本における潜在患者数(本当は閉塞性無呼吸症候群であるのに自覚がない人):500万人 |
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療を受けている患者数:2万人 |
いびきがある場合の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の可能性:28% |
潜在患者の男女比:男性が女性の2倍 |
受診患者の男女比:男性が女性の10倍 |
肥満の方(BMI>30)の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の可能性:32% |
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんが最も多い年代:60歳代 |
女性は閉経後に閉塞性睡眠時無呼吸症候群になる可能性が増加する |
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんの60~70%は肥満が原因である |
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんの約50%に日中の眠気が認められる |
睡眠時無呼吸症候群のほとんどは閉塞性であり、中枢性(原因が脳にある)は1~2%程度である |
次に閉塞性睡眠時無呼吸症候群がなぜ起こるかですが、閉塞性とあるように様々な原因により気道が閉塞することで睡眠時に無呼吸が生じます。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因ですが肥満、小顎(顎が小さい)、扁桃肥大(扁桃が大きい)があります。これは、気道は容器(上顎骨、下顎骨といった骨格)に詰め込んだ肉の塊(舌、脂肪、扁桃腺といった柔らかい組織)の中に空いた空洞であると考えればわかりやすいです。
肥満の人や扁桃が肥大している人は容器の大きさは変わらないものの中身の肉の量が増え空洞(気道)が狭くなったと考えることができます。
小顎の場合は、肉の量は変わらないものの容器の大きさが小さいために空洞(気道)が狭くなったと考えることができます。
しかし、こういう状態の人であっても目が覚めているときには呼吸が苦しくなることはありません。寝ているときだけ無呼吸になります。 原因は2つ考えられます。それは姿勢と筋肉です。
寝ているときは、人は仰向けの状態になることがあります。また寝ているときは筋肉も働くことをやめてリラックスしている状態になっています。筋肉がリラックスしているために、仰向けになった時に、舌や口腔内の脂肪組織が下がり、気道が狭くなり、いびきをかいたり、呼吸ができなくなるのです。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の症状ですが、一番多いのが夜間のいびき、無呼吸です。いびきをかいている人の28%に閉塞性睡眠時無呼吸症候群があるというデータがあります。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんのうち90%がいびきをかくという研究データもあります。また、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんのうち約50%に日中の眠気があるというデータもあります。(しかし、眠気の原因は多数存在するため、閉塞性睡眠時無呼吸症候群以外の原因についても考えなければなりません)以下に閉塞性睡眠時無呼吸症候群の症状についてまとめた表を載せます。
成人 | 小児 |
---|---|
いびき |
成長、発育が平均に達していない(個人差があるため一概には言えません) |
閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、高血圧症、糖尿病、不整脈、脂質異常症、動脈硬化症、肥満、心不全、虚血性心疾患、脳血管障害といった全身的な病気の原因にもなります。
上記のような症状があると自覚されている方、もしくは他人から指摘されたことのある方は、一度検査を行ってみることも大切だと思います。
睡眠障害のうち、歯科に深くかかわっているのは、閉塞性睡眠時無呼吸症候群です。閉塞性睡眠時無呼吸症候群についての精密な検査や診断は、医科のほうでしていただくようになるのですが、そのあとの治療のための装置に我々歯科が深くかかわっているのです。続いて、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療についてお話ししたいと思います。
睡眠時無呼吸症候群の治療には大きく分けて、根本治療と対症療法に分けることができます。
根本治療とは原因を取り除くことを目的とした治療法です。体重減量(ダイエット)、耳鼻咽喉科的手術(扁桃肥大が原因の場合)、口腔外科的手術(小顎や舌が大きいことが原因の場合)があります。
対症療法とは原因に対してではなく、その時の症状を軽減するために行われる治療法です。
医科で行われる経鼻的持続陽圧呼吸法(CPAP)治療、歯科で行う口腔内装置(OA)治療、横向きになって寝ることをサポートする睡眠体位の指導などがあります。
経鼻的持続陽圧呼吸法治療は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療法で最も多くの患者さんに行われています。重症な患者さんであっても効果は優れているのですが、装置の違和感、煩わしさがあり、きちんと患者さんに使っていただけないこともあります。
口腔内装置治療は、軽症~中等度の症状の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんや経鼻的持続陽圧呼吸法治療が使用できなかった患者さんに使用されます。治療効果は経鼻的持続陽圧呼吸法治療に比べ劣ります。その反面、経鼻的持続陽圧呼吸法治療ほどの装置の違和感、煩わしさはないという特徴があります。このように、経鼻的持続陽圧呼吸法治療と口腔内装置治療はお互いの長所、短所を補いあっています。
主に使用される口腔内装置は下顎を前方に出した状態を保持するための装置です。下顎が前方に保持されることで気道が広がることを利用しています。しかし装置の性質上、治療効果の出やすい人とそうでない人がいます。
以下に口腔内装置の効果が出やすい人とそうでない人を比較した表を載せます。(あくまでそういう傾向があるというだけで絶対的なものではありません)
歯科で行う治療 ~口腔内装置治療~
歯科医院で診察後、歯や歯ぐきに問題ないか診査します。
問題がなければ歯の型・かみ合わせの型をとり、模型上で装置を作成いたします。
後日、かみ合わせを調整し、装置を装着します。 数回の調整が必要です。
可能であれば、その後改善具合を医科で再度検査していただくのが望ましいです。
手術などの侵襲を伴わない、というメリットがあります。
しかし、使っていただけないと効果がありません。
最初は違和感があるので、慣れる時間が必要です。
医科からの紹介状がありましたら健康保険が適応されます。
効きやすい | 効きにくい | |
---|---|---|
性別 |
女性 |
男性 |
年齢 |
若い |
高齢 |
体格 |
痩せ形 |
肥満型 |
閉塞性無呼吸症候群が起こる体位 |
仰向けで起こる |
横向きに寝ていても起こる |
閉塞性睡眠時無呼吸症候群について説明してきましたが、人生楽しむためには、はやり起きているときに、元気に活動的に生きることに尽きると思います。そのためにも、良質な睡眠は欠かせません。
ひょっとしたら自分は閉塞性睡眠時無呼吸症候群なのかなあと思い当たる節がございましたら、気軽にご相談ください。
最後に、厚生労働省が出している睡眠障害に対する対処法を載せておきます。12個ありますが、できる範囲からしてみてください。良質な睡眠をとることができるかもしれません。その過程で何かお手伝いできることがありましたら全力でサポートさせていただきます。
1 | 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分:睡眠の長い人、短い人、季節でも変化、8時間にこだわらないようにします。歳を取ると必要な睡眠時間は少なくなります。 |
2 | 刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法:就寝前4時間のカフェイン摂取、就寝前1時間の喫煙は避けます。軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニングを行います。 |
3 | 眠たくなってから床に就く、就寝時間にこだわりすぎない:眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ寝つきを悪くします。 |
4 | 同じ時刻に起床:早寝早起きではなく、早起きが早寝に通じます。日曜日に遅くまで床で過ごすと月曜日の朝がつらくなります。 |
5 | 光の利用でよい睡眠:目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計にスイッチを入れます。夜は明るすぎない照明にします。 |
6 | 規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣:朝食は心と体の目覚めのために重要、夜ご飯はごく軽くします。運動習慣は熟睡を促進します。 |
7 | 昼寝をするなら15時前の20~30分:長い昼寝はかえってぼんやりするもとになります。夕方以降の昼寝は夜の睡眠に影響するためしないようにします。 |
8 | 眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝、早起き:寝床で長くいすぎると熟睡感が減ります。 |
9 | 睡眠中の激しいいびき、呼吸停止や足のぴくつき・ムズムズ感には要注意:睡眠障害の原因が病気の可能性があるため、専門治療が必要になります。 |
10 | 十分眠っても日中の眠気が強いときには専門医に相談:車、自転車の運転には要注意です。 |
11 | 睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと:寝酒をすると、深い睡眠を減らし、夜中に目が覚める原因になります。 |
12 | 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全:絶対にアルコールと一緒に使用しないでください。 |