MTAセメントについて
こんにちは、歯科医師の川野です。 健全な歯にむし歯ができた時、むし歯は歯の頭(=歯冠)側から、根の先(根尖)方向へと進んでいきます。進んだ先には神経や血管を含む部屋があるため、むし歯がその部屋まで到達した結果、歯の神経が徐々に細菌感染で侵されていくわけです。この状態で歯科医院にいくと、「神経をとらなければならない」と言われる場合も多いのです。 ただし、診断結果によってはまだ神経を残せる可能性があります。いくつか検査をして、どのような状態なのか、確認していきましょう。 ・何もしなくても痛いのか(自発痛) ・・・など これらを組み合わせて、すでに神経を残せない状態なのか、残せる可能性が少しでもあるのか、私たちから患者様にご説明しています。 ここで後者の場合、神経を残すための手段として登場するのが、冒頭に出てきた「MTAセメント」という材料です。MTAとはMineral Trioxide Aggregate の頭文字をとったもので、主原料はケイ酸三カルシウムなど。良好な封鎖性、pHが高いことによる高い抗菌性、生体親和性、硬組織形成誘導能、が特徴として挙げられます。1990年代から多くの論文が発表され、現在ではそれらのデータに基づき、歯科界で広く用いられている材料となります。実際の臨床では、感染した部分の神経を取り除き、神経の露出部分にこの材料を置くと、新たな硬い組織が作られる、ということがわかっています。 MTAセメントを使った治療例のご紹介
写真のように大きなむし歯が神経まで及んでしまった場合、MTAセメントを用いない限り、基本的には神経をとる治療(根管治療)が必要となります。 根管治療を行った歯は、行っていない歯に比較して、歯の喪失リスクが1.8~7.4倍と報告されており、神経を残すことのメリットは大変大きいです。 私たち歯科医師も、できる限り神経を残すようにしたいという気持ちが大きいですが、MTAセメントによる治療が可能かどうかは、歯を削ってみて、実際にマイクロスコープで神経の状態を見てみないとわからないことも多くあります。せっかく患者様がMTAセメントによる治療をご希望されても、使えない可能性もある、ということはご理解下さい。 以上のことを踏まえ、大きなむし歯がある方には、歯の神経を残す最後のチャンスとして、MTAセメントを用いた治療をご提案することがございます。しっかり説明を聞いた上でご決断いただけますと幸いです。 分からないことがあればスタッフまでお気軽にお問合せください。 |